“ふじのくに”から飛躍するアーティスト紹介

01-2.

写真長尾 春花   Haruka Nagao

ヴァイオリン
静岡県掛川市出身

祝・ハンガリー国立歌劇場管弦楽団コンサートマスター就任
ハンガリー リスト音楽院 留学
出発直前と今を語る
 

2015年9月よりハンガリーの首都ブダペストにあるリスト音楽院に留学した長尾春花さんに出発の前日(2015.8.30)と、1年半が経過した今、ハンガリー国立歌劇場管弦楽団コンサートマスター就任の記念コンサートのために掛川に帰郷した日(2016.1.31)に、それぞれお話を聞かせていただきました。

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[出発直前・インタビュー日時]
2015年8月30日 富士市内のレストランにて



Q1.
今回、本格的な留学になりますが、留学に向けての抱負、期待することや、今回の留学の目的など聞かせてください。

A1.
今回の留学の目的は、大学の博士課程にいてバルトーク(1881-1945、ハンガリー出身の世界的な作曲家)の研究をしているのが一番の理由です。ハンガリーを選んだのもそのためです。今行っている研究を成し遂げるためにも、日本にいるだけでは学べないハンガリーの風土や人々が育んできた文化などを直接私自身も体得したいと思いました。


Q2.
ハンガリーの文化や民族性への親近感を感じると伺いましたが、どういった点で特に感じられますか?

A2.
ルーツが同じアジア系といわれていることもあると思いますし、民族がいろいろ入り混じっているヨーロッパの中でも身長が少し低めだったり、髪の色が黒めだったりとかするところかも親近感がわくと思いますが、人間性や性格の面からも日本人の几帳面さや謙虚さなども似ている部分は多いと思います。それは一般的な視点ですが、私の場合は演奏者としてバルトークの音楽に共感することが多いです。




Q3.
ウィーンやドイツの音楽とは違う部分はどんなところですか?

A3.
どこかファンタジックだったり、現実には無い世界を想像したりして表現するんですが、バルトークの場合、同じような部分もありますが、やはり、自分の頭と心が同時に動かなくてはならなくて、ファンタジーの世界を想像する思考だけでは表現できないんですね。つねに自分が同じ世界を共有している感じがあります。すごく考えないといけない音楽ですので、それを堅苦しく感じる方も多いようです。キーワードは「言語」らしくって、リズムの特長は全て言葉からきているといわれています。
私がハンガリーで出会った日本の方がいるんですが、その方は40年くらいハンガリーに住んでいるピアニストで、ハンガリーに来た最初の頃はバルトークの音楽は理解できなかったそうです。それから3年くらい経って、言葉が抵抗なく話せるようになった頃、ある時、すっとバルトークが自分の中に入ってきたそうなんですね。言葉がわかるとメッセージがわかるみたいです。その話を聞いたら、もう言葉を覚えるしかないなと思いました。




Q4.
今回の留学でハンガリーの言葉を習得したら、一気に何かが拓けるかもしれませんね。そのあたりで期待することはありますか?

A4.
そうですね。もしかして、私が感覚で想像していたものとは答えが違うかもしれないし、逆にそれがもっと深まるかもしれないし、今わからないことがたくさんあるので、すごい楽しみです。


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[今・インタビュー日時]
2017年1月31日 掛川市美感ホール・会議室にて




Q5.
ハンガリーに留学して1年半になりますが、出発前に思い描いていたことと比べて、実際の印象はいかがですか?

A5.
行く前から思い描いていた通りで、住んでいる人々がみんなとても温かい国だなと思います。ハンガリーは、歴史的にとても辛い過去があった国なので、人々もどこか影があるような思いを持っているところがあって、バルトークの作品にもそうですが、ハンガリーの音楽には、どこか影があるようなところが感じられますね。そんな中でも、特に印象的なのは、みんな周りの人に何かしてあげたいって自然に思う人が多いことですね。何か見返りを期待する訳じゃなくて、Give and Takeが、Give and Giveなんです。以前、贈り物をいただいたのでお返しを渡したら「えっ、何これ?」って感じで、リアクションにビックリしたんですが、やはり過去に辛い歴史があったからこそ、周りに対して優しくなれるんじゃないかなって思います。あと、やはりブダペストの街は、古くからの建物が街全体にそのまま残っていて、とても美しいです。




Q6.
リスト音楽院は、バルトーク自身も学んでいる音楽大学とのことですが、これまで春花さんも学ばれたウィーンの大学とは違う校風や指導内容など、大学の印象をお聞かせください。

A6.
グラーツ(ウィーン)に留学した時は、室内楽とかは取っていなくてヴァイオリンのレッスンだけでしたので、校風のようなものを直接感じる機会は少なかったんですが、今(リスト音楽院)は、現地の学生や外国からの留学生たちと一緒に室内楽もやるし、音楽の作り方も日本とは違うアプローチがあって勉強になるところは多々あります。


Q7.
『言葉を覚えるとバルトークのメッセージがわかる』と出発前にお聞きしましたが、1年半経って、まだ途中かもしれませんが、言葉の習得も含め、実際に学んで感じたことはありますか?

A7.
ハンガリー語は、そのほかのどの言語とも似通っていないので、私自身のハンガリー語はまだ1歳半のような感じです。まだ、片言のような会話しか出来ませんが、現地のオケ(国立歌劇場管弦楽団)のみなさんと会話する時はハンガリー人の方ばかりですので、ほとんどハンガリー語で話しています。英語よりドイツ語の方が通じることが多く、その点でも過去の歴史を知ることができます。私のハンガリー語は、いま急ピッチで習得中です。
バルトークの音楽についても、語頭に必ずアクセントがくるなど言葉の発音などの特長がわかってきたこともあって、以前よりは理解が進んだ部分も少しずつ出てきています。




Q8.
今回、ハンガリー国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスターに就任され、大学での研究に加え、演奏家としての活躍の場が一層広がっていますが、今後ますます期待が広がりますね。コンサートマスター就任までの経緯や今の心境をお聞かせください。

A8.
コンサートマスターのオーディションを受けることになったのは、ブダペストで開いた私のコンサートを聴きに来てくださったオーケストラのディレクターの方からのお誘いがきっかけです。手続き上のいろいろな事情でオーディションへの招待状と課題の曲の楽譜の到着が遅れて、私のところに届いたのがオーディションの前日だったんです。ソロの曲からコンチェルトの曲、オーケストラの課題曲など数曲あったのですが、滅多に無い機会でしたので、徹夜で練習して臨みました。オーディションも一日で行われ、三次まであるのですが、最後まで残ってコンサートマスターに就任することになりました。歌劇場の管弦楽団では、オペラとバレエを演奏しますし、コンサートでは「ブダペスト・フィル」に名前を変えて演奏会をします。オペラは藝大の頃に一度だけ「フィガロの結婚」を経験しましたが、今はいろいろな作品を演奏できますし、コンマスの席から歌手の皆さんの声や息づかいを直接見聴きできるので、とても楽しいです。大道具や衣装など美術系のスタッフの皆さんもいて、そういった大勢の力で一つの舞台を創り上げていく過程に参加しながら、直接肌で感じることができることも楽しいです。
オーケストラの皆さんはみんなハンガリー人で、さすがにハンガリーの音というか、響きも独特なものがありますし、中には、まさに名手というに相応しい凄い奏者もいますので、そういった方々と一緒に音楽を奏でることで刺激もたくさん受けることができます。
もちろん、私が最初にハンガリーに行こうと思った動機は、大学での研究です。まだ、道半ばですが、あと1年半ありますから、研究を最後までやり遂げることを第一に取り組んでいきたいと思います。今回、新たにオーケストラのコンマスになることで、ハンガリー人の楽団員のみなさんともたくさん交流できますから、そういった機会も自分の研究に活かしていけたらいいなと思っています。


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長尾春花さん、インタビューにご協力ありがとうございました。

「今」の取材をさせていただいた2017年1月31日、掛川市美感ホールにて「祝・ハンガリー国立歌劇場管弦楽団コンサートマスター就任記念コンサート」が開催されました。(主催:掛川市生涯学習振興公社、掛川市)
演奏会は、無伴奏による長尾さんの独奏(バッハ、パガニーニ、バルトークの作品)と、コンサートマスターに就任した際のエピソードをはじめ、ハンガリーの文化や風土、街の様子などのトークがあり、長尾さんが幼少の頃から応援してきた多くの市民の皆さんに囲まれて、とても温かい素敵なコンサートとなりました。
トークの中で紹介されたお話に、コンサートマスターのオーディションの最後(三次)が終わって、合格となり就任が決定した後、楽団員のみなさんが歩み寄ってきてくださって、お祝などたくさんの賛辞やハグなど心から歓迎してもらえたこと、そして、三次審査で演奏したバルトークの協奏曲を、ハンガリー人の楽団員から「素晴らしかった!」という言葉をもらえたことが嬉しかった・・・というエピソードが、私は一番印象に残りました。
長尾さん自身が留学前から抱いていた思いはもちろん、ハンガリー音楽に対する飽くなき探求心が根底にあるからこそ、出発前にも語っていたように、頭と心が同時に動いて、自分が同じ世界の中で共感するということが、バルトークの協奏曲の演奏を通して、遠く東洋から来た長尾さんと、ハンガリーで生まれ育った楽団員の皆さんとの間で起こった瞬間ではないだろうか・・・と、お話を聞いて感じました。
世界を舞台にした長尾さんの今後ますますの活躍を期待していますし、心から応援しています。


紹介映像 

♪クライスラー“愛の喜び”
 @UMF in Hamamatsu 2012 "春の祭典"


→映像関連情報はこちら

(FCN公式ホームページ“公開映像”コーナーより
 


PROFILE 

長尾 春花 (ながお はるか)

3歳よりヴァイオリンを始める。
7歳で浜松交響楽団楽友会オーケストラ(現、楽友会オーケストラ浜松)とモーツァルトヴァイオリン協奏曲第4番を共演。

2001年
第6回江藤俊哉ヴァイオリンコンクール
ジュニアアーティスト部門最年少第1位
2004年
第58回全日本学生音楽コンクール全国大会中学校の部第1位
2006年
浜松交響楽団ソリストオーディション第1位
2007年
第1回宗次エンジェルヴァイオリンコンクール第1位
第76回日本音楽コンクール・バイオリン部門第1位
全部門の中で最も印象深い演奏に贈られる増沢賞受賞
2008年
静岡県文化奨励賞受賞
ロン=ティボー国際音楽コンクール第5位
2010年
第4回仙台国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門第3位
2011年
東京藝術大学内にて安宅賞受賞

これまでに、ソリストとして、東京交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、セントラル愛知交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉、群馬交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、神戸市室内合奏団、シンフォニエッタ静岡、山形交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、静岡交響楽団、芸大フィルハーモニア、フランス国立放送フィルハーモニーオーケストラ、オマハシンフォニー、ドナウシンフォニーオーケストラ、アルメニア室内オーケストラ等と共演。
ラ•フォル•ジュルネ音楽祭、第35回名古屋国際音楽祭、リゾナーレ音楽祭等で招聘演奏。また、2012年全国育樹祭にて皇太子御前演奏、2014年伊勢神宮内にて伊勢神宮式年遷宮祈念奉納演奏。
 ラジオでは、NHK-FM「名曲リサイタル」での公開収録演奏をはじめ、FM-浜松、FM-横浜、FM島田、テレビでは、NHK、NHK静岡、NHK名古屋、フジテレビ等に出演。
 2008年より、岡山潔、山崎伸子、松原勝也各氏の薫陶を受け、弦楽四重奏団「Quelle Quartett(クヴェレ・クァルテット)」で活動。東京藝 術大学音楽学部室内楽講座とウィーン音楽演劇大学ヨゼフ・ハイドン室内楽コンサートにてライプツィヒ弦楽四重奏団と共演。藝術大学とウイーン国立音楽演劇大学の共同プロジェクト「haydn total」(ハイドン弦楽四重奏曲全68曲CD録音)に参加。2010年第20回リゾナーレ室内楽セミナー「緑の風音楽賞」受賞。ハイドンシリーズ、JTが育てるアンサンブルシリーズ、プロジェクトQ、リゾナーレ音楽祭などで演奏。2014年リヨン国際室内楽音楽コンクール入選、第3回秋吉台室内楽音楽コンクール第2位受賞。

2009年よりアイワ不動産イメージキャラクターとしてCM出演。
2011年、一般社団法人ふじのくに文教創造ネットワークのFCN音楽大使就任。
2011〜2013年度、公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション奨学生。
2015年度、公益法人 明治安田クオリティオブライフ文化財団奨学生。
2012年より3年間、シンフォニエッタ静岡ソロ・コンサートマスターを務める。
2013年度、シャネルピグマリオンデイズ アーティスト。
2014年より、静岡県掛川市のお茶大使就任。
2015年10月より、埼玉県上尾市のキラリあげおPR大使就任。

これまでに、篠田真美子、江藤アンジェラ、故江藤俊哉、景山裕子、沼田園子、ジェラール・プーレ、ボリス・クシュニールの各氏に師事。現在、青木高志、岡山潔、玉井菜採、ペレーニ・エステルの各氏に師事。
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部弦楽科を首席にて卒業。グラーツ国立音楽大学ポストグラデュアレ課程修了。東京藝術大学音楽学部大学院修士課程を首席にて修了。同大学院博士課程在籍。2015年9月よりハンガリー、リスト音楽院に留学。


[長尾春花・公式WEBサイト]
→ Haruka Nagao Official Web Site はこちら